1.立体映像の制作の前に
立体映像の制作を行う際、クリエイターが一番最初に理解すべきことは立体映像表現の特性を知ることです。
クリエイターはその特性を知った上で、効果的に立体映像を用い、表現が立体映像となることに意味があるコンテンツを考え出すことが大切になってきます。
今回は、立体映像の中でも両眼視差を利用した立体映像制作について取り上げます。両眼視差を利用した立体映像とは、右目で見る画像と左目で見る画像を変えることによって、その画像のズレから
脳が感じる遠近感で立体感を表現するというものです。詳しい原理の説明は、WEB OPEN SEMINAR VOL.3で紹介されていますが、ここでは、立体映像が得意とする表現や控えるべき表現などの立体映像のコンテンツの制作に取りかかる前に知っておいた方がよいポイントを制作現場の視点から紹介します。ここで紹介するポイントは絶対に守るべき制約ではないですが、クリエイターの方がコンテンツを考案する際には、あらかじめ知っておくと、よりスムーズに制作を行えるようになると思われます。
〈1〉『画枠ひずみ』の問題
書籍 『次世代メディアクリエータ入門1[立体映像表現] カットシステム(2003) 河合隆史、田中見和共著、井上哲理監修 』 の中でもとりあげられていますが、立体映像では、平面映像とは決定的に異なる『画枠ひずみ』と呼ばれる特有の問題が発生します。
これは、画面より前に飛び出して見えるような映像が、表示ディスプレイの枠(フレーム)にかかっている場合に、立体映像が破綻してしまうという問題です。この問題は、ディスプレイに枠があれば、小型の液晶でも大型のスクリーンでも同様に生じる問題です。
画枠ひずみが生じるような映像は、多少であれば気にならないかもしれませんが、こうした映像が度々使用されると、見る人に違和感を与え、臨場感溢れる立体映像に没入する妨げになります。したがって、画枠ひずみという問題を理解し、あらかじめこの点を念頭において、カメラカット、シーンの構築、映像演出を考案するほうがよいといえます。
〈2〉立体映像、立体ディスプレイの得意な表現
ここで紹介するのは経験上の見解ですが、立体映像は単体のモノ(オブジェクト)それ自体の立体感を表現するよりも、モノとモノの距離感や空間の位置関係を表現するのが得意なようです。シーンを構築する際は、カメラから見たときに、奥行き方向にモノが重なり合うように配置すると、飛び出し感や奥行き感が表現されやすいといえます。
また、立体映像では、画面の奥から手前、手前から奥などの前後の動きが効果的です。とくに、ディスプレイ面の奥から手前に飛び出してくるような映像は演出として有効です。
さらに、立体映像は質感の表現がしやすいです。これは、マテリアルがキラキラと輝くような光沢感や、半透明のオブジェクトを光が通過する透明感、細い艶やかな髪の毛がふわっと浮く空気感などがあげられます。木漏れ日や水に反射する太陽光など、光を効果的に映像に利用すると、質感や存在感を平面映像以上に表現することが可能です。
〈3〉ターゲットとなる立体ディスプレイの特性
CGクリエイターの方々は、平面映像のCG制作においても、ディスプレイモニター、印刷物の色数や解像度など、出力ターゲットの特性を調べた上で、それにふさわしい制作を行っていると思います。
立体映像においても、出力ターゲットとなる表現装置である立体ディスプレイの特性について、コンテンツ制作の事前に知っておく必要があります。
立体ディスプレイの特性として、あらかじめチェックしておくポイントとしては、次のような点があげられます。
立体ディスプレイの解像度
平面映像のCG制作時は、ターゲットとなる出力解像度を決定した上で、モデルの創り込みの度合いを決定していると思います。立体映像の場合も同様に、ターゲットの立体ディスプレイの画像解像度を知り、表現可能な映像品質を見極めておく必要があります。
また、立体ディスプレイには、多眼式と呼ばれる、複数の視点からの映像を同時に1つのディスプレイで表示する方式があります。こうした多眼式立体ディスプレイでは、ディスプレイそのものの解像度のほかに、立体映像の1眼あたりの解像度というものがあります。この1眼あたりの解像度が実質的な立体映像の解像度となるものもありますので、説明書などを参考に1眼あたりの解像度を調べ、その解像度で表現できる映像を制作する必要があります。
立体ディスプレイのサイズ
立体映像の場合、ディスプレイのサイズが飛び出し感や奥行き感に影響を与えます。このため、ターゲットとなるディスプレイのサイズを把握しておく必要があります。
例えば、同じ解像度でも、サイズの異なるディスプレイでは、ディスプレイの画素ピッチ(画面上の隣り合うピクセルの間隔)が異なってきます。画素ピッチの違いは、右目用、左目用の映像のずれ(両眼視差)に影響を与えます。したがって、同じ立体映像でも、ディスプレイのサイズにより、飛び出し感、奥行き感が異なったものとなります。
立体ディスプレイの方式
立体ディスプレイには、偏光フィルタ方式やパララックスバリア方式など様々なものがあります。方式によっては、表示時に映像の縦や横の画像の解像度が減少するものがあります。例えば、縦方向に解像度が半分になるような方式では、細かい文字などの縦方向の細い線がつぶれて見えなくなることがありえます。
どのくらいの飛び出し、奥行きが表現できるか
立体ディスプレイと言っても、今のところは、無限の空間の奥行き感を表現することはできません。手前への飛び出しはどのくらい表現できるのか、奥行きはどこまで表現できるのかは、ディスプレイによって異なります。これについては、画面手前に何cm、画面奥に何cmなどディスプレイの説明書などを参考に把握しておきましょう。
他にも数々のポイントがあると思いますが、これらが立体映像の制作前に押さえておくべきとして経験上重視している点です。これらのポイントをあらかじめ理解して映像内容を考案することで、立体映像の制作がよりスムーズに行えるようになると思います。
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